第二十八章 帰還



「私を……?」

「ユアロとイークが動くことは予定内にあったし、そうなるとルマーまで我々が動くには、間の大国二つが邪魔だろう。だからその二つを戦争状態にし、混乱しているところで君を連れ出せば被害も最小限に済む」

 ところが、と言ってリミオスは溜め息をついた。

「ヘイルソンがこの一件に絡んでくるとは全くの予想外でね。まさかリファムを使ってまで邪魔をするとは思わなかった。まあ結局、こうして君がエルダンテに戻ってきてくれたから、咎めるつもりもない」

 こちらへと伸ばした手を、険しい目で見ながらアスが払う。

「そんなことの為に沢山の人が死んでも、あなたは同じことを言うんだな」

「言っただろう、平和が血と涙で贖われていることを世界は隠している。私はそれをほんの少し背を押してやっただけで、表層化させたのは世界の意志だ。ヘイルソンもグラミリオン国王も、私は戦争をやってくれなどと頼んだことは一度もないよ」

「でも、あなたは手を出した。戦争を続けた者も起こした者も同罪だ。その中でどんな人間が死ぬかわかっているはずなのに、どうして」

 アスの目の前で死んでいった人々の顔が次々と浮かび上がる。彼らはそんな不条理な論理の下で死んでいい人間ではなかった。

 否、彼らに限らず、この戦いに巻き込まれて消えていった命の全てが、本来ならば穏やかに一生を全うする道筋にあったはずだ。それをリミオスの手が変えてしまった。

 どんなにリミオスらの境遇を知り、道理を連ねられても、納得することは出来ない。

「アルフィニオスの呪いでも何でも、二人はそういう世界が嫌だったんだろう?だったら、どうしてその世界と同じことをする必要があるんだ。二人と同じような人を沢山作ることになっても……」

「それでも良かった」

 カラゼクの言葉がアスを遮る。

「呪いをアルフィニオスに受けた時から、我々は自らが罪悪となって、人々にその在り処を教える立場になれるのではないかと思った。憎むならそれでいい。それ以上に僕たちは世界を呪っている」

 一切の感情を寄り付かせない物言いにアスは言葉を飲み込んだ。一瞬だけ噴出した怒りが再び出口を失う。

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