第二十八章 帰還



「彼らは所詮、人ではなかったんだよ。人のふりをして人に混じり、道を示しながらも人心まで彼らは理解出来ていなかった。……もう彼らの力はあてに出来ない、それなら自分たちでと予言書を完成させ、そしてアルフィニオスの怒りを買い、呪いを受けた」

 抑揚のない言葉の一つ一つが、オッドから譲り受けた記憶を呼び起こす。

 確かにオッドは本当に彼らを理解出来ていたとは思えない。現に、リミオスが口にすることはオッドも考えの及ばぬところだったろう。

 だが、それは本当にオッドやアルフィニオスだけの問題だったのだろうか。

 リミオスの話を聞きながらアスは萎みかけていた怒りが蘇るのを感じた。

 そんなアスの心情を知ってか知らずか、リミオスは嘲笑を浮かべる。

「不老不死とは実に有意義な時間だったよ。突然、人としての輪から外されて、そんな僕らに世界は決して優しくなどなかった。他者を迫害し、蹂躙することでしか生きる価値を見出せない。異質なものを見つけては駆逐し、そうすることが平和だと信じる人々の横で、誰かが血を流している」

「まるでそこに流れる血がないものであるかのように、世界は振舞うんだ」

 カラゼクが腕組みを解いて、こちらに体を向ける。

「お前もわかるはずだ。人々が目指すところの大いなる平和が沢山の血と涙で贖われていることを。そしてそれを世界は隠し、人は自らが犯す罪悪を知らずに安穏と生き続ける」

「だから戦争まで起こしたって言うのか!」

 身の内でこごっていた怒りが爆発する。

 だが、二人とも表情を崩すことなく、リミオスに至ってはむしろ更に冷静な口調で言葉を紡いだ。

「寝ぼけていた世界を起こしたと言ってもらいたい。これが世界の本当の姿だ。もっとも、本来はリファムとグラミリオンに戦ってもらうつもりだったけどね」

「ヘイルソンの邪魔が入って、仕方なくエルダンテが動いた。本当ならグラミリオンにリファムの相手をしてもらい、その間にルマーからお前を連れ出す予定だったんだ」

 アスは目を見開く。

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