第二十四章 片翼



「あいつらにとって僕は敵でお前は味方なんだ……そんなことが簡単に覆るわけないだろう」

「そんなことはない」

「……反吐が出そうな理屈だね。これは僕がへましただけなんだからさ。……ソンは喜ぶかな」

「……喜ぶわけないだろう」

 段々と四肢から力が抜けていくフィルミエルを繋ぎとめておくかのように、アスは彼の頭に手を回して強く抱きしめた。

「喜ぶといいな……僕が消えたら、僕が持っていたものがソンに戻るから……そしたら、少しは笑ってくれるかな……」

 弱弱しい声と共に口から血が溢れ出る。かすれた声に力が戻る気配はなく、指先に感じられる体温ばかりが空しく思えた。

「あいつら、僕がいないとすぐに喧嘩するから、だから、せめて僕が持ってたものくらい……返してやらないと……」

 すると、背中で血まみれになりながら折り畳まれていた翼が先端から段々と色を失っていくのが見えた。灰色になってしなびた羽根がはらはらと、落葉の如く広がり落ちていく。

 どうにかしてそれを止めたい思いで翼に触れるも、既に翼としての機能も命もなくしたそれは枯れた木のような印象しか与えなかった。

 その時である。

「ああ」

 一段と弱くなった声が何かに気付いたようで、もう動く力もないはずの頭が緩慢な動作でアスの首元に寄せられる。まるで母親の腕に抱かれる胎児が如く、頭の落ち着く場所を見つけたフィルミエルは紅い瞳を細めた。

「……麦畑ってこれか……何だ、悪くないじゃないか…──」

 血の気を失った頬に涙が一筋、流れて落ちる。

 最期にアルフィニオス、と呟き、フィルミエルはすう、と息を吸い込んだまま、再び息をすることはなかった。


+++++


 城の修復は追いつかず、ひとまず攻撃に耐えられるだけの備えをして、そのままにしておこうという結論になった。元々が古い為にいつ壊れてもおかしくはなく、オッドがこのままでいいと言ったのが大きい。リファム西部を臨んだこの状態で、修復作業をしつつの進行を覚悟していた面々は一様に安堵した。

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