第二十四章 片翼



 フィルミエルを怒らせるのと、真実、伝えたい思いで本音を口にしたが、彼の激昂ぶりはアスの予想を越えていた。怒りながら今にも泣きそうだった紅い目が胸を詰まらせる。

「伝えなきゃ……」

 走りつつ、左腕を覆う手袋を外した。オッドによる呪が施してあるそれは、アスの力を押さえ込む。通常の手袋では力に負けてぼろぼろになってしまうのを見かねての物だった。

 投げ捨てるわけにもいかずに乱暴に胸元に突っ込んだ刹那、頭上から殺気が落とされる。

 慌てて地を蹴り、裏手に広がる庭に飛び出た。その背後で轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れる。振り返って剣を構えた先では大量の土が噴出し、カリーニンやライと共にフィルミエルの急襲を受けた時を彷彿とさせた。

 だが、過去にひたっている時間も与えられず、もうもうと立ち込める粉塵から小さな影が飛び出たかと思うと、咄嗟に目の前に掲げた剣へ金属音と共に凄まじい力が加わった。

 耳障りな音をたてる剣へ爪を立てたフィルミエルが、鮮血のように紅く染まった目を細める。

「……そうそう、この剣だっけ。あの大男を殺したのって。どう、血の染みは拭えた?」

 思わず目の前が真っ白になったアスは力任せに剣を振り払う。切っ先が体を捕える前にフィルミエルは後退し、愉快そうに笑ってみせた。

「あいつも馬鹿だよねえ。アルフィニオスの力が流れてるなんてさ。人間如きに彼の力を受け継ぐことが出来るはずもないのに」

 激しく動く心臓をなだめつつ、アスは眉をひそめる。

「……なに?」

「僕があんな狂言、信じるわけないだろう。それなのに戦いながらもアルフィニオス、アルフィニオスって。あまりに煩いから殺そうとしたのに、しぶとくてさ。お前の剣は本当に役に立ったよ」

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