第二十四章 片翼



「だから単身乗り込んできたというわけか」

 イークはそろりと剣の柄に手を伸ばす。

「少し無理をしたよ。ヘイルソンから羽根を分けてもらったんだ。お陰でこんなざまだけど、一人で飛べるようになれたからいいさ。……もうヘイルソンの命令なんか関係ない、僕は僕の望みの為に動く」

 アスを庇いながらイークは柄を握り締めた。

「そういえばお前たちのご主人は息災か?残念ながらリファムはご主人の思ったような国にはなり得なさそうなんでな。今のうちに謝っておきたいんだが」

「ヘイルソンは今忙しいんだ。お前みたいな下衆の相手をする余裕もないんだよ!」

 語尾に力を込めたかと思うと、柄を握り締めていたイークの手につかみかかり、反抗する間も与えずに廊下の壁へ叩きつける。あまりの怪力に一度は堪えてみせた壁だが、やがて堪え切れず、身動きの取れないイーク共々地上へ崩れ落ちていった。

「イーク!」

 飛び出して身を乗り出したアスの頬に、フィルミエルの一閃がひらめく。間一髪で避けた頬には赤い筋が走っていた。

「お前の相手は僕だよ」

 言うや否や跳躍し、体をひねって蹴りを叩き込んだ。だが、アスは剣を抜いてそれを防ぎ、数歩退いて態勢を整える。

 再び攻撃を繰り出そうとしたフィルミエルは何かに気付いたように首を傾げ、そして「ああ」と笑った。

「声、出るようになったって本当なんだ」

 剣を構えながら視線を横に走らせる。地上に落ちたイークはどうにか仲間に受け止められたらしく、体を起こしているのが見えた。背後を見れば廊下は伸びて、城の裏手に至る。フィルミエルが本気なのは明らかで、ここで事を構えるのはアスにとって分が悪い。

「……ソンから聞いたのか」

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