第二十四章 片翼



 あいつら、と鸚鵡返しに問おうとした時である。大地が揺れ、どこかで城が崩壊する音が響き渡った。

 揺れる足元に重心を奪われた二人はその場に屈みこむ。アスを庇いつつイークは立ち上がり、下で行き交う人々の中にジャックの姿を見つけて声を上げた。

「何があった!」

 足を止めたジャックは声の主を探すようにあちこちを見回した後、頭上に思い至ってイークを振り返る。ハルアやカラゼクと共に怪我も治り、こうして走ることも可能なようだが、その顔は必死で青くなっていた。

「フィルミエルが来て、南の回廊の一部を破壊した!アスを探してる!」

 一瞬、アスは息を飲んだ。その隣でイークが声を張り上げる。

「態勢を崩されるな!あいつらは目的のもの以外には興味がない!」

「その通り!」

 頷きかけたジャックの頭上、そしてイークとアスの目の前に大きな翼を翻した黒髪の少年が舞い降りる。その姿に二人は愕然とせざるを得なかった。

「お前……その羽は何だ」

 彼らが知るフィルミエルの翼は片翼であった。だから常にガットやソンと共に移動し、そのバランスを取っていたのである。

 しかし、今、目の前に現れたフィルミエルの背中には大きな翼がもう片方にも伸びていた。元からあった翼とは違い、服を突き破って出たらしい翼は血にまみれ、鉄臭い匂いを漂わせながら絶え間なく鮮血が滴り落ちる。その影響か、白かった服もその大部分がどす黒い色に染まっていた。

 紅い瞳に宿る狂気がそのまま具現化したかのような姿で、それでも尚、無邪気に笑う顔には戦慄さえ覚える。

「……僕たちは不完全なんだ。一人では飛ぶことすら出来ない。だからガットに手伝ってもらいたかったんだけど、二人には僕の気持ちは理解出来なかったみたいでね」

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