第二十一章 影の在り処



「昔、少しばかり話したことがある。まだ若いのに頭の切れる奴だと末恐ろしくなった。……それだけだ」

 目を伏せてこの話題の終了を告げる。オッド共々、途端に態度を変えたイークへ「世界を守る手伝い」の仔細を問うことは出来ず、バーンはアスを見る。視線に応えて小さく笑う姿にいくぶん、ほっとさせられた。

「知ってほしいことは山ほどある。時間がないのも事実だけど、詰め込んで覚えてほしいとは思わない。今話したことは全て仮定にすぎないし、私も実際信じきれていない。事実をどう捉えるかは自分次第だ」

 でも、と言ってふわりと笑う。

「私は皆に会って、ちゃんと話がしたかった。……今はそれが出来て満足だ」

 柔らかな微笑の奥に、非情なまでの決意が見えた。


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 夕飯の片付けを終えてアスが外に出ようとした時、バーンが台所の入り口で待っていた。その顔にいつもの陽気さや軽快さはなく、「話がしたい」と言った声も硬い。明かりの少ない城内では金髪も鮮やかさを失い、だが、アスは不安を覚えるよりも心なしか安堵していた。

 バーンがアスと話をしたいと思ったように、アスもその瞬間を望んでいた。

 バーンに伝えるために。

 こっち、と城の正面へと赴き、月の光に照らされた階段に腰掛けてなだらかな丘の起伏を臨む。アスの隣に腰掛けたバーンは月を眺めながら硬い空気を解き、小さく笑って口を開いた。

「顔色はいいな。カリーニンがちゃんと世話をしたらしい」

「うん。随分、迷惑をかけた」

「それを承知でオレが命じたんだから、あいつだって覚悟してただろう。腹は立ってたかもしれねえけど」

「……私が憎い?」

 アスの顔を見まいとでもするかのように、月を凝視していた両眼が初めてアスを見据える。一度は反らそうとした目を、覚悟を以ってバーンへと向けると、穏やかな光を灯した金色の瞳が目に入った。

 月夜の下にあっても輝きを失わない、太陽のような目。

 カリーニンはきっと、この瞳の暖かさを守るためには何をしてもいいと思ったに違いない。

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