第二十一章 影の在り処
「アスラードが持つ黒い剣だ。最も、神子によって形は違うがね。元は『時の器』を形作っていたものだ」
皆の視線が一斉にアスへと集まる。その腰にはバーンらが運んできた黒い剣が鞘に収まり、静かな顔でぶらさがっていた。
──あれが。
かのアルフィニオス神書にもその行方が書かれていなかった、半ば伝説のような存在が今ここにある。
皆が息を飲むのが聞こえた。
「欠片の存在こそ、神子の意味でもある。だが、アスラードに関してのみ、その限りではない」
アスはわずかに目を伏せた。言葉を切ったイークに促され、オッドが静かに口を開く。
「……先刻、イークが言うたように我々は『時の神子』の存在を見誤っていた。彼らは欠片と共に生まれ、それによって時を操る力を有する。その事から神子の存在そのものに意味があると考えていたが、どうやらそれが本当に当てはまるのはアスラードしかいないようでね」
風が大きく吹き込み、木の葉がひらひらと舞い込む。
「まあ、はっきりとはまだわからんがの」
小さく笑ってオッドは続ける。
「だが、アスラードはあらゆる意味で初めての神子であることに間違いない。過去にこれほど巨大な欠片を有した神子も、そして女の神子も現れたことはなかった」
視線を一身に受けたアスが苦笑してオッドの話を補足した。
「今までの『時の神子』は皆、男だったんだって。女は私だけらしい」
「その意味は?」
ザルマが問うも、アスは肩をすくめる。話の流れを受けたイークが口を開いた。
「詳しいことは知らん。だが、真実を知っている者もいる」
「それはリミオスさんのことか?」
急き込むように尋ねるライに向かってイークはにやりと笑ってみせる。
「勘がいい。おそらく、『時の神子』に関して真実を知っていたのはリミオスとヘイルソン……「羽持ち」のみだろう。我々はまんまと踊らされていたというわけだ」
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