第二十一章 影の在り処



 尚も詰め寄るヴァークに対して降参するかのように両手の平を向けて、苦笑した。

「いや、わざわざ今言うことじゃないからさ……」

「今じゃなかったら、いつ言ってくれる?」

 ザルマが静かに問うた。その顔を振り返ってみれば、微笑する表情の中に覚悟が秘めて見える。

 声を出すことも叶わなかったアスを支え、そして離れてからは心配かけてばかりいた。ザルマはアスに対して、その素性を問わずいつも真摯に応じてくれていたのだ。

 自身の立つ場所を見つけた今、アスがするべきはその姿勢に応えることである。

 それに気付いたアスの目からはおどけたような光は消え、真剣な顔でザルマを見、離れて様子を見ていたオッドを見る。互いに視線を交わしたのはほんの一瞬だったが、それを合図にしたのだろう。目を伏せて頷いたオッドは静かな足取りでアスの元に赴き、驚く面々を尻目にアスの前にあぐらをかいた。

 自然と会話が途切れ、皆の注意がオッドとアスへ向く。

 それまで場を埋め尽くしていた人の声が消え、木々の囁く声へと変わったのを耳にしながら、オッドは口を開いた。

「……さて、ここに集う面々はわしが思うよりも覚悟を決めておるようだ。もう少し状況を把握してから話そうとは思ったが、肝を潰す準備は出来ているかね?」

 周囲を見渡すオッドから、苦笑めいた笑い声がさざ波のように広がってゆく。つられるようにして微笑し、オッドは少し体をずらしてそちらを向いた。

「わしは宿屋をやるつもりはないと言った。そなた達を招いたのはアスラードの為でもあるが、もう一つ聞いてもらいたいことがある」

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