第二十一章 影の在り処



「……何だ、今から呼びに行こうと思ったんだが」

 ああ、とイークの影になったアスが顔を出す。

「ごめん。ちょっと外に出てたから」

 そう言ってイークと皆を交互に見て苦笑すると、部屋に入った。知らぬ間に漂っていた皆の緊張がふっと解け、ザルマがアスの手を引く。一方でそれを見送ったイークが定位置に戻ろうとするところをロイが輪に引きずり込み、赤ら顔で酒が並々と注がれた杯を持たせていた。

 困惑しながらも徐々にいつもの調子を取り戻していくイークを横目で見やり、アスはザルマの隣でスープを受け取っていた。

「あんたとこうして話せるなんて嬉しいわ。なのに話そうと思ったら昼間は全く会えないし」

「昼間はどうしても休みたくって。本当はしっかり話したかったんだけど」

「休むって?」

 アスの姿を認めたサークが兄の手を引きながらすっ飛んでくる。そしてちゃっかりアスの隣に陣取り、屈託のない笑顔を向けた。

「夜にあまり眠れなくて、それで昼間寝るしかなくってさ。イークとの畑仕事は本当に地獄だから、体力もたないんだ」

「あー……そういや、さっき皆くたばってたよな。それか。寝れないって何でさ?」

「夜は賑やかだから」

「賑やか?」

 言いながら、ザルマ共々ヴァークらも耳を澄ませる。今でこそ人の声で賑やかだが、それを除外しても残るのは木々や鳥、獣の声ぐらいしかない。

 ザルマがきょとんとした顔でアスの顔を見る。

「これが?」

 アスは小さく笑った。

「賑やかだね。ここにある音とは違うけど」

「ふうん。……お前、何か隠してない?」

 ヴァークが疑いのこもった目でアスを覗き込む。一瞬、その目を見据えたものの、気迫負けしたアスは目を反らす。

「隠してるつもりはないけどなあ」

「話せるようになって、表情隠すの下手になったな。それで隠してるつもりかよ」

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