第二十一章 影の在り処
「昼ご飯、どうするのかなと思って。食べるなら作るけどさ」
「どうする?」
そう言って皆の顔を見渡す。具体的な答えは得られず、やはり視線はアスを向いたままだ。居心地の悪い思いをしながらイークを見ると、苦笑しつつ答えが返ってくる。
「なに、少しばかりお前の種明かしをしただけなんだがな。まさかここまで驚くとは思わなかった」
「ああ……」
大きく息を吐きながら相槌を打ち、異質な空気の原因が何であるかようやくわかったようである。無理矢理作ったかのような苦笑を皆に向け、いくらか覇気のない声で言った。
「詳しく説明してなかったからなあ。後でちゃんと話すよ。ところで昼食は食べる?」
アスの言葉でやっと我に返ったらしいバーンが「いや」と短く答えると、アスは「わかった」と頷いてイークに向き直る。
「じゃあちょっと寝てくる」
「いつもの所か?」
「何かあったら呼んで」
それから二言三言交わすと、アスは再び来た道を戻る。
言葉を挟む余地が見つけられず、一部始終をとっくり見物するだけに回った彼らへ、イークのありがたい言葉がかけられた。
「今日はこれで終わりにする。農具はアスラードが向かった方へ行けば倉庫があるから、扉の近くにまとめておけ。その後は自由にして構わん」
ふっと、空気が弛むのを皆が感じた時、イークの「ただし」という強い口調がその弛みを正す。
「庭の池には注意しろ。それと、昼間にアスラードを見かけても特に用がなければ放っておけ。とりあえずはそれだけだ」
質問は受け付けないとばかりに、言うだけ言うとすぐさま背を向けて城に戻って行った。
注意を促すようでもあり、一方で彼らに新たな疑問の種を植え付けただけのイークの言葉は、一つの答えを導き出す。
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