第二十一章 影の在り処
「どうして、あそこで手伝うの一言が出ないのかね。折角、オレが気をきかせてやったのに」
「頼んでない」
体を起こして反論するも、声をかけるタイミングを失っていたのは事実である。痛い所を見抜かれて、それ以上の言葉を続けることは出来なかった。
「ガキじゃねえんだから。意地突っぱねて得することなんかねえぞ」
「バーンが言うと真実味あるよなあ」
「確かに。ザルマ相手に意地を張って勝てた試しがありませんな」
「恥ずかしー」
ライの向こうから次々と言葉を被せてくる仲間に睨みを効かせた後、相変わらず固い態度を崩さないライに溜め息をぶつけてイークを振り返る。
「なあ、王様。アスに開けられる鍵なら、ちょっとばかり危ないんじゃねえの。あいつ不器用だし」
「剣や料理の腕はいいぞ」
「そっちは知らねえよ。でもアスに開けられる鍵ってことは、ど素人でも開けられる鍵ってことだろ」
「そのことか。なら問題ない」
くすりと笑って頭に巻いていた布を取る。
「正確には鍵を開けるというよりも、壊して入ると言った方が正しい。あいつの力を見たことはあるだろう?」
ライが体をイークへ向ける。それに気付いているのかいないのか、イークはライを見ようとはせず、日差しの厳しい畑を眺めた。
「鍵自体は普通の錠前だが、その一部分の時間を進めて腐食させてな、壊して鍵を開ける。なかなか細かい力の使い方をするものだが、たまに鍵を戻すのを忘れるから困ったものだ」
呆気に取られる面々を見て微笑し、立ち上がる。
風ばかりが沈黙を埋める中、用を終えたアスが戻ってきた。一斉に視線を集めたことに驚きながら、イークに尋ねられて思い出したように答える。
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