第二十一章 影の在り処
屍よろしく横たわる彼らを眺めつつ現れたアスもさすがに驚き、ぎょっとしたようにイークへ尋ねた。
「……休ませたの?」
「今、休ませている」
一人、平然とした表情でライたちの顔を眺めるイークの指導がどんなものかは聞くまでもない。かつては自分がその犠牲だった。
「一気に広がったね」
木陰に腰掛けるイークの前に立ち、畑を振り返る。記憶にあるものよりずっと広い。
すると、側で大の字に寝転ぶバーンが口を開いた。
「来たばかりの人間をこき使って、これだけの成果があがらなけりゃそれこそおかしいってもんだ。労いの言葉でもくれんのかよ」
「バーンたちが来るまでは私がその役だったからな。お疲れさま。それとイーク、馬小屋の鍵知らない?あと倉庫。あれらって鍵束になってただろ」
「私の部屋にあるが……すぐに必要か?」
「ああ、ならいいや。自分で開けるから」
「普通の鍵ならオレが開けてやろうか。ライと一緒に行って手伝ってやるよ」
肩をびくりとさせたライを差し置いて、話を聞いたバーンが体を起こす。盗賊仕込みの鍵開けの技術はどんな鍵でも開けることが出来た。しかし、アスは手をひらひらとさせて断る。
「いいよ。自分で開けられる」
「後でちゃんと戻しておけよ。前に書庫の鍵がそのままになっていた」
アスは苦笑して謝る。
吹く風で汗が冷えるのを感じながらイークが問うた。
「倉庫に何の用だ?」
「馬に積んだ荷物とか、あと色々」
「手伝うか」
「いいよ、そんな重いものでもないし」
腰を浮かしかけたイークに慌てて手を振る。あまりに手を貸してもらうと後が怖い。
暗にそう含ませて言いながら、アスは皆の前を横切って立ち去った。
バーンはその背中を見送り、隣に寝転ぶライに視線を戻して頬杖をつく。
- 545/862 -
[*前] | [次#]
[しおりを挟む]
[表紙へ]
0.お品書きへ
9.サイトトップへ