第二十一章 影の在り処
用件だけを告げるとオッドは踵を返し、僅かに会釈したアスもその後に続く。
ようやくの再会を喜べるかと思っていたサークはあからさまに落胆する様子を見せたが、声をかけてすがることも出来なかった。
雰囲気が変わってしまったことによる遠慮と、なぜかひどく疲れているように見える配慮からであった。オッドを手伝った所為だろうか。
ヴァークがしょんぼりとする弟の肩を抱いてベッドに腰掛けようとした時、部屋を出かけたオッドが思い出したように振り返る。
「そうそう、どこを見ても構わんが、庭の池には気をつけておくれ。気の小さな友人がおるものでな」
それと、と続けるのを待たずにアスがふらりと部屋を出た。
「それと、昼間はアスラードを見かけてもそっとしておいてもらいたい。彼女が休めるのは昼間しかないものでね。……それさえ留意してくれれば、この城での生活は案外と快適だ」
どこを見てもいい、という言葉の通り、去り際に扉を閉めることはせず、オッドは扉をそのままに退室した。どこからか吹く風で、木製のドアが小さく声を上げながら揺れる。
その動きを眺めながら、彼らは誰ともなく視線を交わしあった。
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遠路はるばる招かれて、ようやく人並みの生活を取り戻せるかと思った矢先の農作業は苦痛以外のなにものでもない。加えて、イークの指導は軍隊なみに厳しく、かろうじて高齢者のバルバストへはいたわりの心を見せるものの、それ以外の者に対してはノルマを課しつつ厳しく指導していった。
そのお陰かどうか、どうやら予定より早く終わったらしい農作業の結果、畑の規模は最初の約二倍、その殆どに野菜の苗も植え、水まきも完了している。後に残ったのは完全に体力を使い果たした面々で、イーク以外の全員が地面に寝そべるなどして休息を取っていた。ようやく昼になろうかという頃合で気温も上がっているが、地面を滑る風が涼しいのが幸いである。
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