第十五章 岩窟の処女
「そうだな、かなり不可抗力な理由で同行していたな」
ふと、聞いていたらしいサークが二人の方を見た。
元々、アスへの同行を命じたのはバーンである。それも剣を教えろという些細な注文だったはずだが、状況が転じてこの始末だ。バーンの命令を未だ果たしていないのだと気付き、思わず苦笑する。
「アスにはまだついてやった方がいいだろう。この先、とんでもない山道を歩くことになったらどうする。お前達二人じゃ、あの足の遅さを庇いきれん」
「何だ、それ。俺ならいざとなったら担ぐし、平気だぞ。サークはともかく」
「何だよ、それ。兄ちゃん絶対、イラついて先に行っちゃうね。ぼくは一緒に歩いていくもの」
「短所ばかり見るなよな」
「兄ちゃんこそ」
「……元気なのは結構だが、喧嘩は外でやれよ」
兄弟喧嘩に発展しかねない言い合いに釘を刺すと、二人は言葉をおさめ、サークの提案で里の偵察をすることにしたようだ。偵察と言えば聞こえがいいが、この小さな里では探検と言った方が正しいだろう。カリーニンに声をかけて二人仲良く、軽快な足取りで小屋を出て行く。
まるで幼い頃のバーンを相手にしているようで、おかしかった。あれもなかなか手を煩わせるやんちゃを見せてくれた。そんな彼を優しく諭す年の離れた姉が、バーンは本当に好きだったことを思い出す。
──アリエッタ。
随分と遠くなった昔、彼女の存在はバーンだけではなく、カリーニンにとっても大きなものだったのだ。そのあまりの大きさに失った時の喪失感は計り知れず、バーンからアスへ剣を教えるように言われた時、失った悲しみと共にバーンへの怒りが湧き起こったのは、隠しようもない事実だ。いい年をして恥ずかしい。それでもバーンはカリーニンの怒りを正当なものとして否定しなかった。
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