第十五章 岩窟の処女



 既に死んだ男の事を思うのは、日頃納めている怒りを呼び起こす作業そのものだが、彼がもうこの世界に何の干渉も出来ないという事実が同時に気持ちを落ち着かせる。

 無くすものはない。憎むべきものもない。あるのはただ、胸を掻き毟るほど望んだ願いだけ。

 その為だけに、自分は生きてきたのだ。

「……わたしはあまり気が長い方じゃないないんだ」

 遠く、リファム王城にいる何者かに向けてリミオスは呟いた。


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 岩肌に木製の階段がへばりつき、点々と口を開ける岩屋を繋いでいる。その下ではお世辞にも広いとは言えない土地で、小さな小屋が身を寄せ合っていた。まさに隠れ里と言うに相応しい。よくもまあ、こんな所で生活を続けられるものだと、ヴァークやサークは感心しきりで無遠慮な視線を辺りに巡らせていた。

「珍しいか」

 きょろきょろと見回すヴァークとサークをイルガリムが振り返る。この里へ至るまで、一度も二人を気にかけなかった男に声をかけられるとは思わなかった二人は、飛び上がりそうになるほど驚いた。

 驚きのあまり口を閉ざした二人に笑いかけようとして、イルガリムはやめる。小さな里を最奥へ向かって縦断するのにそう時間は要らなかった。それまでに見たのと同じような岩屋へ続く階段の下で、ようやく全員を振り返る。

「これより先は神子一人のみお越し頂く。他の者はこちらが用意した小屋でお休み願おう」

──ようやく賢者に会える。

 瞬時にして表情を固くしたアスに気付き、カリーニンが頭を軽く叩いた。大きな手の平から温もりが伝わる。少し振り返ると、その腕にはザルマと共に買った腕輪が見え、それが自分の腕にもあるのだと思うといくらか心強くなった。

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