第十四章 葬られた民
「残念」
ぽつりと呟かれた言葉をかき消すように、フィルミエルがアスへ向かって突進し、体を捻って蹴り技を繰り出す。ガットの黒炎から逃れて息を整えていたアスは、受身を取る隙も与えられず、目を見張ってその足の行方を見ていると、唐突に巻き上がった突風がフィルミエルの体を横殴りに吹き飛ばした。
見れば、カリーニンらと合流したヴァークがこちらに掌底を向けている。間一髪で助けられたのだ、とヴァークに頷いて返し、先刻から続く戦闘の中で僅かにほっとした瞬間だった。三人は固まっていれば心配ない。
三者三様の攻撃を繰り出す彼らは、アス一人を狙っているのだから。
彼らがアスを孤立させる為に攻撃していたのなら、三人に被害を及ばせたくないアスとしても好都合だったが、逆に囲まれる形となったのは何とも痛い。
──どうする。
ヴァークが精霊の力を使うことは、今のではっきりとしただろう。カリーニンの大剣もフィルミエルは知っているだろうが、彼らには微塵の影響力もない。サークは二人に任せて大丈夫だが、問題はその二人がソンらに攻撃をしかけやしないか、だ。
ソンらはアス一人を攻撃目標としている。だが、外野から邪魔が入れば容赦しないであろうことは火を見るよりも明らかだ。ここから二人に「攻撃するな」と言うわけにもいかず、その上、彼らの性格からすれば今にも突進しかねない。
勝負を早くにつけねばならない。
──だが、どうやって。
一対三とはあまりに分が悪い。だからといって卑怯だと思う心の持ち主でないことは確かだし、そんな淡い希望は捨てて久しい。今、構えている剣にしても特別な力があるわけではなく、その切っ先一つで勝負する他の剣と変わらない。
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