第十四章 葬られた民



「待て。お前は機敏な方か」

 疑問に思いながらも彼は肯定した。

「では国王代理の名で命じる。執権並びに高官各位、国軍将軍と参謀へ直ちに謁見の間へ向かうよう伝えよ」

 すっかり弛んでいた頭がみるみるうちに冴え渡り、衛兵はその場に跪く。だが、その命令の中に不穏な言葉を聞き取り、思わず聞き返した。

「恐れながら、国軍将軍と参謀も、でしょうか」

「そうだ。可及的速やかにと言え。……他に聞きたいことは?」

「いえ、承知しました」

 衛兵は命令の意図することもわからず、視線を下げたままその場から去った。それも逃げるように、と言っても過言ではない。

──将軍と参謀だと?

 国軍を率いる双頭である。戦争でも起きない限り、高官や執権を交えた場にこの双頭が並ぶことはまず、ない。

 それが並ぶことがどういう意味を持つのか、ベリオルの口からそういった事が発せられるのがどういう影響を持つのか、わからない彼ではなかった。

 国王不在の今、ベリオルの言こそがリファムの意志である。そして、将軍と参謀の登場が何を意味するか、自分よりもベリオルの方がよく知っているだろう。

 逸る動悸を押さえつつ、転ばぬよう走り抜けるのに必死で、彼は決定的な事に気付かなかった。否、気付けなかったと言うべきかもしれない。ベリオルの顔をあれほど間近に見る機会は彼のような衛兵には少なかった。

 ベリオルを常に傍に置いていたイークならば、一瞬の内に見分けることが出来たであろう。

──青いはずのベリオルの両眼が、鮮血を落としたように真っ赤に染まっていたことを。


+++++


 ソンが放った、目に見えぬ一刃が大木の幹を切り刻む。沢山の葉と木端を撒き散らしながら倒れる大木から離れ、アスはカリーニンとサークが無事なのを確認した。

 だが、無事な姿を認めた瞬間、背後から黒炎が襲い掛かり、横へ飛び退って剣を構えなおす。炎が放たれた方向ではガットが冷笑を浮かべていた。

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