第二章 予言
よほど大事に保管されていたのであろう。その本に相応しく、流麗な文字が文を構成しているのをライは目で追っていた。
「……アス、凄いよこれ」
混乱に満たされたざわめきに変化が表れる。
ただの驚きとは違う──畏敬の念を込めた驚愕。
皆が動きを止めた。
「……何が凄いの」
恐る恐る尋ねる。ライは声に嬉しさをにじませながら返した。
「よく読めないけど……うん、これ、時の器の話だ」
体をずらしてアスにも見えるようにした。怪訝そうにもう一度その顔を見て、アスは書見台に視線を落とした。
本は見える。保存状態の良い、美しい本だ。
しかし、それは白紙だった。
白紙のページから、顔を輝かせて共に見入るライへ視線を転じる。目は左から右へとせわしなく動き、確かに何かを見ているようだ。
「読めるの?」
なぜか声が震える。
「え?何で。かすれたりしているけど、字じゃないか」
次いで軽く落胆したように、予言書はもう戻されたのかな、と呟いた。
ライの発言に辺りはしん、とする。怒りで顔を赤らめていた兵士でさえ、槍を持ったままぽかんとしていた。
重い沈黙を遥か上からのしゃがれ声が打ち破る。
「何と書いてある」
顔を上げた二人を高みから見下ろす男がいる。
四角い顔に険しい目──きっちり十段の階段の最上段に鎮座する幅の広い玉座に座るその男を、人はエルダンテ王と称した。
初めて見る国王はいやに人間染みていた。本や絵画の中で見る国王の姿よりも、そこに座る男は確かに人間だった。
変な期待を裏切られて唖然とする二人を見かね、階段の中ほどに立つ深い青の髪を持つ青年が声をかける。
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