第二章 予言



 呆気にとられているアスの手を引き、疾風の如く扉に向かって走る。扉の中が安全という確信はなく──むしろ危ないかもしれないが──入れば何かが、自然と解決してくれる自信はあった。

「捕らえろ!」

 室内から騒ぎに気付いた兵士が、扉を開けて様子を窺う。仲間に緊急を知らせるべく二人を追う兵士が声を張り上げた。

 だが、子供が走ってくるという認識から、捕らえるという命令へ思考が直結しなかった兵士はぽかんとしている。

 不思議そうな声をあげた気がした。

 しめたとばかりにライは力一杯扉を引き、勢いで転倒する兵士を尻目に群集に突入する。

 鎧をまとう騎士、ローブを頭からすっぽり被った者、学者風の男。

 突然の乱入者にどよめきがさざ波の如く広がっていく。立ちはだかる人の壁に辟易しながらも、ライはそのスピードを落とさなかった。

 かきわけ、押し退け、時に倒しながら前へ進む。

──早く、行かなきゃ。

「ライ!」

 鎧や人にぶつかって体のあちこちが痛む。それはアスの手を引くライも同様のはずだ。しかし、そのスピードに緩みは見られず、むしろ速まっているように思えた。

 頭上から落ちてくる沢山の罵声に声がかき消されたと思ったアスが、再度声をかけようとした時、突然視界が開け、ようやくライは足を止めた。

 逃げ切れたわけではない。後方から鎧のぶつかりあう音と背丈の高い槍が見える。

 思わずライの手を強く握り締めるが、握り返す力はなかった。今までに無い現象にその顔を見つめる。

 ライは目にしていた。

 美しく装飾された書見台の上の書物を。

 それは古書と言うには綺麗すぎた。ページの端々は黄ばんではいたが破れはせず、綴じ目のほつれもない。

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