第二章 予言
思いのほか、はつらつとした声の返答にアスが後ろで安堵している反面、ライは自身の変調に戸惑いを隠せない。
五感が冴え渡っているのとは違う。何か、見えない手が何本も伸ばされてライの体を動かしているようだった。
当事者の方が、より不気味に感じていたのだ。
「……あ、止まって」
何度目かの掛け声に従う。身を潜めた不穏がまた顔を出した。
──まただ。
ライと共に柱の影に身を潜めていると、見回りの兵士が数人通り過ぎて行った。こうして兵士をやり過ごすのも、城内に入って数回目に至る。
兵士の足音も聞こえぬ内に察知するライも、こうして身を潜めているライの横顔も、何か見知らぬ者を見ているようで怖い。
兵士を見送り、大階段を駆けるように上ると広い廊下に出る。左側を指差したライの顔に笑みが浮かんだ。
「突き当たりだ」
足音をたてるのも遠慮したくなるほど静寂に満ちた廊下の突き当たりに、見上げるまで高い扉が存在している。兵士の姿は幸いにもなく、早鐘を打つ心臓を抱えながら小走り気味に近付く。
もうすぐで、という緊張と好奇心がないまぜになって心を支配し、アスですらあの不穏を忘れていた。
だから、二人は気付かなかった。
驚異的な勘を発揮したライですらも。
「おい、お前ら!」
背後からの叱責に肩をびくりとさせて振り返る。そこには槍を構えた兵士数人が、手柄を見つけたと言わんばかりの顔で立っていた。
彼等からすれば確かに二人は不審者であり、手柄だろう。
「アス!」
ライの大声が静寂を突き破り、アスの手を強引に引っ張って走り出した。
悪事を働いたと言われて否定することは出来ないが、咎められて、ただ槍が向けられるのを待つ言われもない。
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