第十三章 幾多の夜 一つの朝



 だが、誰も咎めることはせず、黙々と片付ける傍ら、カリーニンは窓際に立って外を見た。見える範囲で建物への被害は全く見受けられない。小さく聞こえる喧騒があの衝撃の凄まじさを現実のものと思わせるが、そうでなければ、あったことなどないような顔をして、街は穏やかな朝から過ぎ去ろうとしていた。

「地震じゃないみたいだ」

 カリーニンの隣に立ち、ヴァークが呟く。

「さっきの衝撃で精霊が何人か引き裂かれた。地震は大地がそれを必要として起こすものだから、精霊に危害はない。地震では絶対にそうはならない」

 アスに寄り添うサークをちらりと見て、カリーニンは問うた。

「サークはそれを見たのか」

「……あいつは目がいいから。アスの事も心配なんだろうけど、目の前で精霊が引き裂かれていい気はしないさ」

「魔力か法力か」

「違う。どちらも精霊に危害が及ぶような力じゃない。そんな簡単な力じゃない、これは」

 嫌悪を露にしてヴァークは燦然と輝く太陽を睨み付けた。

「こんなの、道理を外れすぎてる。人が死ななかったのはそれが目的じゃなかっただけだ」

「……なら、目的は果たされたわけだな」

 アス、ただ一人を狙って。

 それならば効果はあったわけだ、と眉をひそめる。

 窓の外を睨み付けるカリーニンに向き直り、ヴァークは小さく呟いた。

「何を考えてる?」

 おさえた口調に、カリーニンはヴァークの顔を見ずに返す。

「……いや、そろそろ動かないと、体が動き方を忘れてしまいそうだと思ったんだ」

「……長居しすぎたね」

 かもな、と笑って言い、ヴァークの頭を軽く叩いてアスの傍に歩み寄った。

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