第二章 予言



「……やめようか」

 ライの提案にアスは無言で頷き、足を速めた。

 既に夕刻の鐘も鳴り、辺りには夕闇が忍び寄っている。家や店の角に巣食う暗がりなどは、夜闇のそれに近い。酒場には賑やかさが訪れ、道行く人々の顔には家路につく安堵感が見えた。自分たちが住む港街とは一種違った華やかさの伴う喧騒がある。見るもの全てが違うものに見え、普段目にしているものでさえ宝石でもついているのかと思う程に美しい。

「ほら! 手!」

 遅くなりだしたアスを振り返り、手を出す。また手を貸されるのか、と腹に据えかねるものもあったが、予言書が見れなければ元も子もない。素直にライに従い、差し出された手を掴む。

 しかし。

「お前遅いから」

 余計な一言に殴ってやろうかと拳を握るも、目の前に現れた灰色の建造物にライ共々息を飲む。

「……でか」

 言葉に出来ただけでも上等だろう。見る者の形容も何も許さぬ厳しさを持って、王城は二人の前に現れた。その荘厳さに自然と足が止まる。

 堀と城壁に囲まれた城は空に向かってそびえ立ち、幾つもの尖塔が背を競うようにして屹立している。どことなく張り詰めたものを漂わせた王城には親近感も何も沸かなかった。

 ただ美しい、それだけである。

 要所要所に添えられた美しい女神や騎士の彫像は見る者を魅了するが、反面、美しくないものを拒んでいるようにも見えた。しかし、隣のライはすっかりその美しさに飲み込まれ、顔から笑みが溢れ出ている。アスはあえて、自分の王城に対する印象を述べなかった。

 だが、見とれて王城を見上げていたのは良いが、視線を前方に戻してはたと気付く。堀にかかる筈である正門の跳ね橋が役目を終えたとばかりに巻き上げられ、城内に入ることがかなわなくなっていた。

 門兵が二人ほどいたが、融通の利きそうにない固い顔をしている。

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