第二章 予言



「見たら戻って宿の手伝いだ。それで飯代はなし。いいな?」

 男とて非道ではない。陽も落ちようかという時、駆け込んできた子供二人は肩で息をしながらも、まず馬の休む所を、と宿屋を営む男に申し出たのである。

──予言書を見に来たにしては感心な奴等だ。

 今日だけで予言書目当てが何人来たことか。その殆どが騎乗した馬など気にも留めず、自身の寝床を真っ先に求めた。旅人としては確かな選択であり、宿を営む男としても良い客ではある。だが、どうにも釈然としないものもあったのだ。

 そんな客が続き、いい加減うんざりしていたところに子供二人の珍客である。加えてなかなかの心意気の持ち主であり、即座に気に入った男は寝床と馬小屋を無償で提供する代わりに一晩働け、と言った。二人が二つ返事で承諾したのは言うまでもない。

 男の優しさに二人は顔をほころばせ、胸がそのまま足についてしまうのではないかと思う程に深く礼をした。

「ありがとうございます」

 礼をした二人だったが、少年の方はどうやら待ちきれないようで、ようやく顔をあげようかという少女の手を引く。

「アス! 行こう!」

 その顔は焦りに満ちていた。ライに手を引かれ走り出した時、遥か後方で男が声を張り上げる。

「馬の名前は!」

「ラス!」

 走りながら声を揃えて答える二人に、あちこちから笑い声があがる。勿論、笑われるとは思わなかった二人は原因の探りあいを始めた。

「何で笑われてるの」

「お前が男みたいだからだろ」

「ライが女みたいだからでしょ」

「馬鹿、んなわけあるか」

「こっちだって」

 大声になりかけた時、通りすがった女性が笑っているのに気付いた二人は、赤面して顔を伏せる。

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