第十二章 繋ぐべきもの
ずっと、いつかその荷物を背負う方法を教えてもらう日を。
ヴァークは弟の手を引くその手の細さに現実に引き戻され、涙を拭った。
彼が主張するところの大罪人が目の前を走っているのだ。追っ手がかからないとも限らない。息が続く限りは逃げなければならないだろうが、一体どこまで走るつもりだろうかと考えたのと速度が落ちたのは、ほぼ同時であった。
荒い呼吸で大きく肩を上下させたアスは立ち止まり、膝に手をついて呼吸を繰り返す。自分と同じく、慣れない力を振るったからか。基礎体力のあるヴァークに比べ、それまでの旅路で心身共にすり減らしてきたアスには、堪える力の発動であったのは間違いない。だが、苦しそうに息を切らせるアスの姿を見ても、ヴァークの気持ちが晴れやかになることはなかった。
立ち止まったことでそれまで詰めていた空気が割け、サークも浅い呼吸を繰り返す。涙を流した跡が目に飛び込み、そういえば弟も泣き叫んで体力を消耗しているはずなんだ、とようやくにして気付いた。どちらもこの先、長距離を走るのは無理だろう。
──早く、走らなければ。
一瞬だけ閃いた考えを、ヴァークは唇をかむことで振り払った。段々と呼吸を落ち着けつつあるサークの頭を叩いて促し、今度はヴァークが先頭に立つ。
「来い」
それから、どこをどう通って逃げ延びたのかは思い出せない。ただ、必死だった自分の要求に応じたのは他でもなく、両親に教えられたグラミリオンの裏道の地図だった。
どこを通れば良いと考える必要などない。自分の足がしっかりと覚えている。
そうして、もたつく後続を引っ張り続け、記憶の中にある裏道の地図を手繰り寄せた結果がこの寂れた裏道である。幸い、記憶に間違いはなく、人通りは全くと言っていいほどない。そろそろと傾き始めた斜陽もここまでは手を伸ばすことを諦め、建物の頭上をなめるに止まっている。
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