第十二章 繋ぐべきもの



 外套を鼻近くまでたぐりよせ、目を細めて粉塵の向こうを見据える。

 おそらく、少し前までそこにいたのだろう。足音と共に僅かに起こった風で粉塵が動き、その向こうでは走り去る影が見えなくなるところだった。

 足音も人影も飲み込み、噴出の勢いが衰えた砂は、今度は地面へ降り積もることを覚えた。雪よりも早い速度で積もる砂は隙間という隙間から入り込み、体のあちこちがざらついて不快なことこの上ない。

──あれが。

 あれが、『時の神子』の力だというのか。不条理に命を奪う、何にも準じぬ新たな力。

 だがそれよりも、アスが一度もライに向かって切っ先を向けなかったことにライは腹を立てていた。

 剣を向けず、言い返さず、落ち着いた目で見られた上に、自分は己が最も忌み嫌う力をアスの前で使う羽目になった。無知を盾にしておきながら知ったような顔で見られ、それなのにライの力に驚く姿は滑稽というよりも我慢ならない。

 この力が自分を孤独にしたのだ。知って然るべき相手が何もしないなど、許されるものか。

 剣は振り上げられた。その行く末を見届ける、あるいは提供するのがアスの役目ではないのか。それをせずしてまたもや逃げたアスの行為は、ライにとって屈辱以外の何物でもない。

 ようやく落ち着いてきた喉の奥で唾を飲み込み、ライは積もる砂を握り締めた。


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 グラミリオンの街には、えてして裏道と呼ばれる細い路地がつきものである。

 父神信仰による他宗教の弾圧から信仰を守るべく、街そのものを要塞化した名残がそれだが、今や住民の生活の一部となっていた。要塞としての機能も果たしつつ、血管のように張り巡らされた裏道は、生活において主要な道としての機能を見出されている。

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