第十二章 繋ぐべきもの



「……ライ!」

 痛む全身に顔をしかめながら、ライの名前を呼ぶ。振り返ったアスに風が激突する瞬間、それまで荒れ狂っていた風が一瞬にして立ち消え、新たな居場所を見つけて巡り始めた。

 一度、霧散した風が何かに引き寄せられるようにして、ある一点へ突き進む。それは今までのような無秩序な動きではなく、統制のとれた動きであり、さながら牙をむいていた獣が主人の前で頭を下げているような光景でもあった。

「……どうして」

 風をおさめたヴァークが呆然とした様子で呟く。それは、この場にいる誰もが抱く声であろう。実際、その力を知っているハルアでさえ、見るたびに「どうして」という気持ちを拭えずにいるのだから。

 風を足元に従えて立つライの顔は怒りに満ち、サーク共々驚くアスを睨み付けた。

「……これが俺の理由だ」

 搾り出すような声を出したと思いきや、地を蹴ってアスに向かい、剣を振り被る。白刃の輝きで現実に引き戻されたアスは体一つ分後退して避け、剣を持った右手でサークの頭を押さえて自分も屈みこむ。

 何を、と思う余裕もなかった。

 アスの左手が橋に触れたと思った途端にそこから沢山の砂が爆発し、視界を遮ったのだ。

 しかも、砂の噴出と共に橋は徐々に崩れていき、アスとライの間に亀裂が出来るまでそう時間はかからなかった。

 突如として視界を濁らす砂の出現にグラミリオンの兵士は統制を失って逃げ出し、ハルア自身も外套で鼻から下を覆うので精一杯のようだった。それほどに砂は細かく、噴出する勢いで更に巻き上げられて余計に視界を悪くする。完全に視界が遮られる前に見たハルアは、欄干伝いに立ち上がろうとしているようだったが、ライ自身、手助けに行ける余裕も──ヴァークから頂戴した風を使うことも忘れるほどに動揺し、激しく咳き込みながら地に膝をついた。

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