第十二章 繋ぐべきもの



 そしてもう一つ、これは主にライと旅路を共にしていたロアーナ達やハルアに言えることだが、ライの背景にある禍根を思えば、迂闊に立ち入ることが出来なかったのだ。

 ライの中にある禍根は様々な感情を伴って、根深く心に入り込んでいる。それを断ち切るのは容易ではないだろうし、そもそも当人にそうする意志がないのだから不可能と言ってもいい。だからこそ、ハルアは勿論のこと、ロアーナ達までもが密かに、ライがアスと再会しなければ良いとさえ思っていた。ライ自身が禍根の根深さに気付かずに育てているのを見れば、アスとの再会で心身共に無事では済まないことは目に見えている。

 だが、国の使命を帯びた彼らにはその選択は許されず、ならば二人の再会には必ず立ち会わなければという確固たる意志があった。

 果たして、その決意は果たされたわけだが、現実に目にしてみると、彼らが入り込む隙など寸分も用意されていないことを思い知る。

 ハルアは眉をひそめた。

 改めて、これはアスとライの戦争なんだと知る。

──だが、それは。

 胸に沸き起こった自分なりの答えに少しばかり目を向けていた時、不意に風が強くなった。

 それまでも申し訳程度の風が吹いていたものの、最早つむじ風と言っていい規模の風の出現はあまりにも唐突すぎた。法力か、魔力の類かとグラミリオンの兵士を振り返るも、皆一様に顔を覆うばかりでそれらしい者も見当たらない。ではロアーナか、と視線を飛ばすが彼女自身も風に目を覆うだけだ。

 その時である。

「サーク!」

 隣に立っていたヴァークの叫び声がしたと思った瞬間、風の塊がアスの背中めがけて放たれる。吹きすさぶ風の中でもよく通るヴァークの声と、その声に呼応して動く風。術者は彼だ、と判断するよりも早く体が動き、ヴァークを止めようと足を近づける。だが、踏み出した足先から風にすくわれ、ハルアは風の勢いに乗って欄干に体を打ち付けた。

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