第十二章 繋ぐべきもの
生気のない顔がそうさせているのか、その雰囲気か。
──どちらでもいい。
ライは剣を抜き、切っ先を下ろしたまま足を踏み出した。後ろから仲間の制止する声が聞こえるが、そんなものは思考から一切切り離す。勿論、『時の神子』の捕獲という国からの命令も共に、ライの思考からは綺麗に消え去っていた。
目の前に待ちわびた相手がいるのである。思わぬ機会に恵まれたと喜びこそすれ、躊躇いなどない。
不条理な存在はまた、誰かに不条理な死をもたらす。
どんな状況があったにせよ、ティオルはアスによって殺されたのだ。それはアスを斬る上での明確な理由に成り得る。あの子供も次の犠牲者になりかねない。右腕の自由がきかないからと剣で払われる可能性もある、と、ライは雨の中で斃れた兵士達を思い出しながら考えた。
──終わりにしなければ。
一歩、一歩と近づくライに気付いたサークが弾かれたように顔を上げ、立ち止まったライとアスの間に割って入る。アスを後ろ手に守るようにしてライを見上げた。
「殺さないで」
ライが手にしている物の意味を知っているのだろう。自力で立つ力もないと思っていたが、予想外に力強い目をライは静かに見返す。
「どいてくれ。俺たちの問題なんだ」
冷めた物言いは、アスにどう聞こえたのだろうと思う。何かを失くしたのはお前だけではないという子供じみた皮肉だった。
しかし、反応はなく、アスの顔はじっと足元を見たまま動かない。サークが代わりに肩をびくつかせただけで、ライが望んだアスの反応は見れなかった。
ライの声音に恐れつつも立ち退かない根性は見上げたものだと思うが、ハルアが動き出したのをとらえたライは小さく舌打をし、サークの右肩に手をかけて退かそうとする。ハルアが動けば自分の望みは果たされない。
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