第十二章 繋ぐべきもの



 だが、その他人であるはずのサークが、知人であった者を含めた全員に抗議している様子は不思議な光景だった。こちらを油断させるつもりだろうか。

──今なら斬れる。

 無防備な姿のサークを見下ろし、腰に下げた剣の重みを確かめた。左腕一本でも扱えないことはない重さの剣だ。もし敵ならば、斬れる。

──だが、それで?

 それで一体、何になるというのだろう。

 サークが意識的にアスを貶めたことなど一度たりともない。何の根拠もない、アスの抱く不信が「敵ならば」という選択肢を与えただけだ。

 そう、根拠など──理由などない。

 たった今、サークが主張したばかりではないか。

 大罪人呼ばわりされる由縁は周り以上に自分が知らない。それは見聞きすべきことをしなかったからだ。もし、罪を問うならば、意識的に無知であることを盾にしたそこに罪がある。何も知らないくせに他人を信じないというのはおこがましい。

 無知を盾にし、不信を矛に変えた先で他人など信じられないと言い放った自分こそ勝手だ。手を差し伸べてくれる人間がいなければ信じられないのか。

──それは違う。

 そんなことは手前勝手な主張にすぎない。それを知らずして、力が全てと思い込むことこそ弱さだ。

 例え、どんな打算や策略が背後にあったとしても、信じようと信じまいと、それを決めるのは他人ではなく、自分の心一つだというのに。

──知っていたことだ。

 随分と遠くなってしまった昔、無心で駆け回り、笑い、そこに誰かがいることが当たり前になっていた時、誰かに手を差し伸べられなくても、自分は誰かに手を差し伸べることが出来た。そこに理由などないとわかっていたからである。

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