第十二章 繋ぐべきもの



「兄ちゃんは自分の復讐を姉ちゃんで代用してるだけだ。自分で出来ないからって姉ちゃんを代わりに使うのは卑怯だよ。姉ちゃんが傷だらけなの、わからないの?見ても、話してもいないくせに、姉ちゃんのことを大罪人呼ばわりするのは勝手だ!」

 嗚咽を噛み殺して当り散らすさまは子供の癇癪にしか見えないが、言っていることは的を射ていた。それはヴァークもライも、そして当事者であるはずのアスでさえも気付かなかったことである。

 右手に殆どしがみつくようにして、サークは全身で叫んでいた。その手は重い。小さい体から声を振り絞るたびにその重みも増す。

 これでは誰かが踏み込んできた時、即座に剣を抜くことは出来ないだろう。その為にはサークを離す必要がある。この手を離し、ヴァークに突き出せばいい。とても簡単なことだ。誰かを斬るよりも簡単な動作である。

 だが、そうするべき一手が出ない。左手はだらりと下がり、風にさらされるままになっている。その間も右腕はサークの体重と温度を一挙に受け止めていた。

──何故。

 サークが周りに向かって怒りを露にしている理由が、アスには皆目見当がつかなかった。

 ヴァークの父に空気が似ていると言われはしたが、所詮、他人である。知人であった人間から相次いで決別を言い渡されたアスにしてみれば、信じる信じない以前の存在だ。どちらかと言えば、何かあった時には斬る覚悟が出来ている対象でしかない。

 そこには煩悶も躊躇いもなく、その隙が自分を殺す。他人に抱く情など持ち合わせる必要などないと、身をもって知らされたばかりだ。

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