第十二章 繋ぐべきもの



 見知らぬ者に対する好奇心と、未知の力に対する畏怖が弟をたぶらかしたのだ。

 ならば、弟を導くのは兄としてやらなければならない仕事である。

 そうしてグラミリオンに密告し、おり良く『時の神子』の追跡にあたっていたエルダンテの神官士とやらに話が届けられたのだ。

 この順調な事の運びに、ヴァークは精霊も神も確かにいると確信した。彼らが自分の味方をしてくれている、だからこの行為は間違っていないという自信をヴァークにもたらした。

 実際は、もう少し入り組んだ事情の中にヴァークの事情が絡まっただけなのだが、それはこの際、ヴァークにもライ達にも関係ないことである。

 彼らの利害は一致し、そして結果としてアスが目の前にいる。後はサークを自分の下に呼び戻せばいいだけなのだが、サークは頑としてアスの手を離そうとしない。

「兄ちゃんは勝手だよ!」

 兄弟喧嘩はもういいと言いたげに各々、剣に手をかけ始めたグラミリオンの兵士やライの後ろに控える人間を見て、アスの動揺がすうと引いていく。半ば反射的な考えで、見知らぬ敵に剣先を向ける方が心は落ち着くようだ。

 左側の腰に下げた剣を抜こうと右手を見るが、サークが離す様子はない。いい加減、意地を張るのはやめて大人しくヴァークに従って手を離せば簡単だろうに。そうすればまた仲の良い兄弟に戻れる。

 自分とライのように、互いに互いを決別することはない、と皮肉に考えた。

 耳は既に二人の会話から興味を失って、剣の音を聞こうとしている。だが、そこにサークの叫び声が邪魔をした。

「皆、皆、勝手だ!兄ちゃんも、そこのおじさん達も!」

 突然に兄弟喧嘩の舞台に引き上げられた「おじさん」達は一様に目を丸くする。中には女性もいたのだが、同じようにして剣に伸ばした手を止めた。

- 284/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -