第十二章 繋ぐべきもの
アスを追うライ達と、ヴァークの利害関係が一致した、そういうところだろう。つまりは売られたと言った方が簡単だろうか。
「何で?」
サークの言葉尻をつかまえて繰り返した瞬間、ヴァークの中でくすぶっていた火が静かに爆発した。
「何もしてない父さんが殺されたっていうのに、大罪人のそいつが何で平気な顔してそこにいるんだよ。だっておかしいじゃないか。父さんが何もしてないのはお前だって知ってるだろ」
「そんなの関係ないじゃないか。じゃあ、姉ちゃんが何かをしたっていう証拠を兄ちゃんは見たの?どうして大罪人なんて酷いこと言えるんだよ」
「お前こそ!」
語気を荒げたヴァークに反応して、川の水が一斉に跳ね上がった。精霊の加護とやらはこんな形でも影響を及ぼすものなのかと、アスは妙に感心する。
「父さんが殺された理由知ってるのか!お前も知らないし、俺だって知らない!父さんも知らない理由で父さんは殺されたんだ!」
それがヴァークの心の中の全てだった。
異端、と一言で片付けてしまうにはあまりにも膨大な量の人間の思惑と偏見がヴァークの父親を殺した。幼少の頃に見えなかった真実は成長するにつれてその全貌を見せ、いかに醜い理由で父親が殺されるに至ったのかを思い知らせた。
ジルはその中で憎悪を育ててゆく息子に危惧したのだろう。父親の話をしなくなったが、一度育てられた憎悪は勝手に成長していく。
そうして出会った『時の神子』という「本物」の異端を前にして、周囲がのうのうとしているのが許せなかった。
何故、父親が死んだのに「本物」の異端である『時の神子』が生きているのか。異端を抹消すべきならば、真っ先に消すべきはこの少女であろう。それなのににこにこと懐いている弟が許せなかったし、また、愚かしくも見えた。
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