第十二章 繋ぐべきもの
だが、そこでもサークはまた、驚く羽目となった。
「……兄ちゃん」
ぽつりと呟いた言葉に促されて、アスはようやく体を動かした。
右手を握り締めるサークの手が、みるみるうちに汗で濡れていく。もしくは自分も緊張から汗をかいているのだろうか、と振り返った先で唾を飲み込んだ。
ライ達が立つ袂とは反対側に、ヴァークは仁王立ちになって立ち、こちらに体を向けている。その背後、旅人と変わらぬ旅装をした茶髪の青年が、グラミリオンの国軍と思われる兵士を数人率いて立っていた。
穏やかな目、広い肩、最後に見た時よりもずっと大人に見えるが、それでも子供の頃の名残は消えていない。苦笑を浮かべた様子は大人じみて見え、それが、彼がここにいることの驚きよりも違和感として心に落とされた。
「……久しぶりだな、アス」
幾分、記憶にあるものより低くなった声が名を呼ぶ。
その声にもアスは声で応えることが出来ず、心の中でハルアと呼ぶだけに留まった。
──どうして。
どちらもエルダンテに属しているのだから、いつかは対峙することもあるだろうと思っていた。
だが、突然すぎる。
あまりにも唐突すぎる再会はどんな感情も飛び越えて、ただ動揺しか与えない。それはどういうわけかライも同じようで、立ち尽くしてアスを見つめたまま動こうとしない。
三すくみの状態で川の流れる音だけが支配する中、止まっていた時間を動かしたのはヴァークだった。
「こっちだ、サーク。来い」
「兄ちゃん」
「そいつ、大罪人なんだろ。匿っていい理由なんかない」
「違うよ。兄ちゃん、何で」
半ば涙声になりながら、サークが問い質すのをアスはぼんやりと聞いていた。
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