第十二章 繋ぐべきもの



 残りの買出しは既に終えている。ヴァークの足元にある小さな麻の袋がそれだ。用事が済んだなら早々に戻りたいのはヴァークのみではなく、それはアスも同じことだった。

 この三人でどこへ行くというのも馬鹿げた話である。ヴァークはアスを警戒しているし、そもそもアスは二人を信用していない。

 だが、それを知ってか知らずか、サークが三人でいる時間を長引かせようとしているのは明らかだった。あの店を見たい、ここに行ってみたい、今、口にした果物もその一つである。そんなサークの態度に苛苛としているのはヴァークも同じのようだが、一度も声を荒げないのはさすがに年長者の責任というものを感じているからだろうか。荒げる声もない自分はその声を待っていたりもするのだが、と小さく嘆息する。

「……あ」

 思考にふけるアスを、サークが現実に呼び戻した。今度は何か、と億劫そうに顔を上げてサークの視線の先を見る。

 人目を憚って目深く被ったフードの向こう、数人の人間の足が見えた。長旅をしてきたところなのか、足元や外套の裾は土汚れが目出つ。足の本数から三人分あると見えるが、それが何故、橋の袂などで立ち止まっているのかわからない。自分たちが邪魔で通れないのだろうかと殊勝なことを考えて欄干に身を寄せた時、視界の端で流れた金色の髪に目を奪われた。

 目を最大限にまで開いたアスの心臓が大きく跳ねる。その脈動があまりにも大きく、体まで震えるかと思ったが、実際、手が震えていた。すると、アスの動揺を感じ取ったのか、サークが震えるアスの手を強く握る。右手に宿った小さな手の感触に自我を取り戻したアスのフードを、強い風が膨らませた。

- 280/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -