第十二章 繋ぐべきもの



「これ、種を食べるんだよ。乾燥から種を守るのに周りがこんな形してるんだって」

 見れば、ヴァークなどはさっさと種を取り出して食べてしまったようで、空になった固い皮を手の中で遊んでいる。サークがやった方法を真似て表皮を割ると、やはり卵大の種が現れた。手の中に落とすとひんやりと冷たく、種と言うには柔らかすぎる印象を与える。

 アスが無事に種を取り出したのを見ると、サークは自分の分を二口でたいらげてしまった。口一杯に頬張ってアスを見上げ、「食べてみなよ」と手で示す。

 見たことのない物、という好奇心が猜疑心を上回り、アスは恐る恐る一口頬張る。すると、中から溢れんばかりの果汁が噴出し、慌てて口の中に全部を収めると、今度はすっきりとした甘さが口一杯に広がった。柔らかな実はあっという間に喉をすり抜け、美味しいと思う間もなく胃の中に落ち着いていく。初めて体験する味は今までに食べた何よりも美味しいと思わせる絶品だった。

「ね、美味しいでしょ」

 果汁でまみれた手を見下ろすアスに、サークが笑いかける。笑顔に促されて反射的に頷くと、より一層嬉しそうに笑って、サークは橋の袂から下を流れる川に走っていき、空になった表皮に水を汲んで戻ってきた。アスに手を川の方に向けるように言うと、汲んできた水でアスの手を洗い流す。

 陽光で暖められた水はほのかに温かく、指をすり抜けて川に戻っていく。その水音を不思議と恐いとは思わなかった。小さな川だからか、それともサークがいる所為で調子が狂っているからだろうか。綺麗に洗い流された手の水を振り払い、再び欄干に寄りかかる。

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