第十二章 繋ぐべきもの



「……一度も掃除しなかったのかよ」

「いいや。わたしは掃除好きだからね、二日に一度は掃除していた」

 思わず呻くカリーニンに、メルケンがにやりとしながら話す。それも口振りからして最近の話ではないようだから、余計にうんざりした。

「掃除好きの店じゃないな」

「そりゃそうさ。ここは元々わたしの店じゃないんだから」

 店を見渡しながら皮肉のつもりで言い放った言葉に、メルケンがひょうひょうとして返す。カリーニンはその姿勢のままメルケンを振り返った。

「わたしにも女として生きた時間はあったんだよ。それも三十年前までの話だがね。旦那は鍛冶師としての腕は最高だったが、家事その他になるとてんで駄目な人でね、その時を思えば今なんて綺麗な方さ」

 言いながらからん、と近くの剣を蹴り倒す。

「あんたもそうは思わないのかい。旦那が最後に大剣を打った時、店を照らしていたのは小さなランプだった。床にはそれなりの絨毯が敷いてあってね、その頃は短剣なんてみみっちい物の相手はしてなかったんだ」

 倒れた剣の向こう、様々な剣が折り重なる山に僅かに出来た空間の中に、年代を帯びてすっかりその輝きを失った小さなランプが胴を見せた。大きく湾曲した胴部分の中には、積み重なる年月に勝てなかったランプの部品が散乱している。

──更に、その奥。

 くすんだランプ越しにこちらを見つめる目があった。

「ランプはまだある。手入れをすれば使えるだろうけど、今じゃ流行りに乗り遅れた骨董品さ。絨毯はもう捨ててしまったが、これでも物持ちは良い方なんだよ」

 でも、と言ってメルケンは小さく嘆息する。カリーニンはようやく、そちら側に体を向けた。

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