第十二章 繋ぐべきもの
それに対し、カリーニンは憮然としながら「当然だ」と返すしか出来なかったのである。
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狭い店内を何人もで掃除するなど効率の悪い話で、だからと言って更に狭い店前に商品をさらけ出しておくことも出来ない。手伝う気でいたサークの不満をなだめて、アスとヴァークの三人で残りの買出しをしてもらい、メルケンの前ではカリーニンが巨体を屈めて床に散乱する武器を拾い集めていた。
「……よくもまあ、ここまで散らかすことが出来たもんだな。尊敬するよ」
「そいつはありがとよ。……ついでに言っておくが長剣はそこじゃないよ。壁際にまとめておいておくれ」
自分の店であるにも関わらず、指図するだけで、メルケンは店奥の椅子に陣取ったままである。思わず腕の中にかき集めた長剣を一本投げつけてやろうかと思うが、徒労に終わる予感に従ってやめた。その様子を見ていたジルが、沢山の短剣を一箇所に集めながら笑う。
「メルケンさんには、さすがのあんたもかたなしだね」
「おれはいたって穏やかな人間のつもりなんだがな」
「ほらほら、まだ武器はたんとあるよ」
二人が交わした会話を断つようにしてメルケンが手を叩く。嫌味にしか聞こえない現実を突き出され、カリーニンは肩の力を落として「たんとある」武器の山に足を向けた。その後ろで笑顔を苦笑に変えたジルが、埃を被った桶を掲げて声をかける。
「もうそろそろ床掃除してもいいだろ。水汲んでくる」
カリーニンの返事を聞くよりも早く、ジルは桶を片手に走って行った。よほど埃臭いのが堪えたのかとも思ったが、見下ろした足元に広がる床は埃と油で黒ずんでいる。ようやくその全貌が明らかになった店の床は、長年の汚れと共に洗ってくれと言わんばかりの顔をカリーニンに向けた。
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