第十二章 繋ぐべきもの
「……探せって言うのか」
「ついでに掃除もしてくれたら、無料にした上で手入れまでしてやるよ。金があるようにも見えんし」
──足元を見られた。
実際、懐に忍ばせた財布はおそろしく軽い。何かの拍子で飛び出してしまうのではないかと思うほどに軽く、旅路で首から提げられるように改良したほどだ。
そもそも、店を持つのだから店主と言うのであって、やってきた客に自ら商品を探して掃除しろなどとのたまる店主など聞いたことがない。手入れしてやる、という偉そうな態度もカリーニンの度肝を抜くには充分だった。鍛冶屋なのだから、武器の手入れぐらいはやって当たり前なのではないだろうか。
しかし、ここで断って他にアテがあるわけでもない。
嘘か本当か、無料という申し出は非常に魅力的だ。幸い、体力仕事には向いている。大剣が欲しいのは事実で、出来ることなら今すぐにでも欲しい。あとはメルケンの言葉を信じるか否かだけだった。
ちらりとサークを見やると、まだ返事もしていないのに、掃除を手伝うつもりか腕まくりをしている。背後からはジルのおさえた笑い声が聞こえた。
──はめられた、というべきだろうか。
おそらく、ジルもサークもメルケンという人物の性質を知った上でここを紹介したのだろう。それは性質と鍛冶師としての腕前を秤にかけた結果、いささかあくどい面を差し引きしても腕前が上回ると考えてのはずだ。そうして実際、彼女らの予想は見事的中したわけだが、騙されたと言うほど悪質なものではないから困る。
「急いでるんだろ?」
黙りこむカリーニンの気持ちを逆撫でするように、メルケンが笑いを含んだ声で問うた。
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