第十二章 繋ぐべきもの



「客が入れんってのはどういうことだ」

 思わず口をついて出たぼやきにジルがけらけらと笑って返した。

「これでも綺麗な方だよ。前なんか武器が道になだれ込んだことがあってさ」

 ねえ、とヴァークを振り返る。しかし、言葉を返すでもなくヴァークはふい、と顔を背けただけだった。

 ジルが一つ嘆息して何か言いかけた時、店の奥から軽快な足音とそれに半歩遅れて小さな足音が四人の耳に届いた。顔を上げた先、店の奥に巣食う陰から浮かび上がるようにしてサーク、そして小柄な老婆が現れる。

 年代をそのまま刻みこんだかのような皺、細い手足、深く被った帽子の下からは白髪が見てとれた。服装はどこか、ジル達の一族がまとうものとよく似ている。サークが意気揚々と案内したあたり、一族の者なのだろうか。

 老婆をとっくり観察して推測を巡らす半面、店主不在か、とカリーニンが軽く肩を落としかけた時、サークは嬉々としてカリーニンの手を取った。

「大きな剣がいいんだよね」

「そうだが、今日は無理だろう」

 きょとん、としてカリーニンを見つめ返すサークの心を代弁するかのように、老婆が口を開いた。

「わたしがメルケンだよ。男でなくてすまんね」

 突っかかるような物言いはまさに、溢れかえる武器で客を寄せ付けない店を体現したかのようだった。


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 大剣がいいのか、とメルケンは繰り返して茶をすする。

 暗い店の奥、招きに応じて進んだ先も暗いかと思いきや、そこではいくつもの小さなランプが明かりを灯していた。だが、物の多さは店の比ではなく、なまじ明かりがあるだけに、山と積み上げられた物達の輪郭を浮き上がらせて余計に不気味さが際立つ。その中にちょこんと納まるようにして座るメルケンは、どこか置物めいて見えた。

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