第十一章 その手のひらに



 全身に生臭い血を浴び、手に肉を断つ感覚を味わいながら、アスは魔物の爪が届かぬよう剣と共に本体へと歩みを進める。その度に絶叫が耳をつんざき、振り落とされそうになる体を地面に繋ぎとめて足を動かした。

 既に、剣を握る手は真っ赤に染まり、滑って力を込めるのも難しい。ただ握っているだけに近い状況で、魔物の肉を断つ剣の切れ味は素晴らしいの一言に尽きた。

 やがて、ごつ、と何か硬い物に刃先が当たったと思うや否や、魔物は首に剣を突き刺したまま巨体を横たえた。決して剣を離すまいとしていたアスもその力にはかなわず、一瞬中空に体を投げ出されてから魔物の上に落とされる。

 まとわりつく血を毛皮になすりつけ、体をゆっくりと起こす。だが、全身に浴びた血で足を取られて地面へ滑り落ち、アスは尻をしたたかに打ち付けた。

 わずかに顔をしかめて、恐る恐る近づく人々を一瞥すると、再び立ち上がって魔物の首に突き刺さったままの剣に手をかける。手と同様、血にまみれた柄は掴もうとする手からするりと逃れた。ならばとばかりに外套を手に巻いて柄を握る。先刻よりも掴みのいい握りに手応えを感じながら、渾身の力を込めて抜き放った。

 やはり切れ味が尋常ではなく良いのだろう。すっと抜けた剣からはあっという間に血が流れ落ち、まるでこの状況を作り出したのは自分でもないと言いたげに輝く。見れば、魔物の首にアスが斬りつけた傷は骨にまで達していた。

──やれる。

 ふ、と足の力が抜けてアスはその場に座り込んだ。本調子ではない体に、この戦闘はよほどこたえたのだろう。立ち上がろうにも足に力が込められない。

 だが、アスは満足していた。

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