第十章 足跡
気持ちのいい時間だとアスが噛み締めた時、唐突に茂みを掻き分ける音がした。口に含んでいた最後の一口を急いで飲み込み、剣を握る。だが、立ち上がろうとしてまだ完全に回復しきっていない体は、急な展開に対応出来ない。足元がふらついて倒れそうになるのをカリーニンが受け止める。
それでも、と剣を抜き放った時、「待った」という少年の声が響き渡った。若い、という感想が頭に浮かんだ瞬間、両手をこちらに見せて掲げた少年が二人、近くの木の後ろから姿を見せる。
若いという感想通り、一方はまだ幼さの残る少年で、大きな目は微かな怯えを映し出した。もう一人、すらりと背の高い少年はアスと同年ぐらいだろうか、幼い少年と目鼻立ちが似ているが、しっかりとした顔つきで、目に宿るのは怯えではなく責任感だった。兄弟だろうと見当づけたアスにカリーニンが剣を収めるよう言い、アスは渋々、剣を鞘に戻す。眩暈まで起こしそうになった今、まともに戦えるどころか立てるかも怪しい。
手のひらをこちらに見せたのは戦闘の意志が無いことを主張するためだろう。しかし、腰に下げている剣は何とも頼りなさげで、意志があってもカリーニン一人で打破出来そうだと考えてしまう。
カリーニンがアスを後ろに立つと、同じように幼い方を庇うように前に出て、背の高い少年が声を上げた。
「旅の人間か」
「まあな。何だ」
「煙が見えた。火を使ったのか」
「使っちゃ悪いのか」
「悪いよ!」
幼い方が後ろから顔を覗かせるようにして声を張り上げる。調子の高い声はやはり怯えに満ちていた。剣を抜いたアスに対する怯えだと思っていたが、違うのだろうか。
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