第十章 足跡



「実際のところ神官士の数は少ない」

 ベッドに腰掛け、カラゼクは手を組みながら呟いた。

 不安げなランプの明かりが、それぞれにそれぞれの影を持たせて照らし出す。窓の外はすっかり日が落ちて暗くなり、カーテン越しにでもその黒の深さが窺い見ることが出来る。随分と時間が経った、とライは実感した。

 あの丘でカラゼクと会い、そこから南に下りた街のこの宿に場所を移してから今に至るまで、ロアーナとジャックの顔から緊張が消えることはない。無理もないだろう。自称、エルダンテ国軍特務第二小隊改め中級神官士と言われても早々ピンとくるものではないし、第一、何を改めたら中級神官士になるのかさえわからない。どちらも聞き覚えのある名称なだけに混乱が混乱を呼び、ライなどはもう割り切ってカラゼクの話に付き合うつもりだった。

 元々、上級神官という肩書きを頂いてリミオスの側近でいられたのである。予言書を読む者でなくなった途端、上級神官という位は剥奪され、それでもリミオスの側近であることに変わりはなかった。

 しかし、位と居場所の不一致に加えてリミオスへの不信が強かったライは自ら特務隊に志願した。アスを追うのに特務が導入されるという噂は前々から聞いていたし、何にせよ、自分だけの力で何かを掴み取ることに焦っていたのもある。幸い、特務に見合うだけの力は神子として扱われた時に叩き込まれたものが役立っていた。

 そうして袖を通した軍服が神官と同じ白だった時には憤りを隠せなかったが、カラゼクを前にして、そんなもので突き動かされるのも馬鹿らしく思えてしまう。緊張していないと言えば嘘になるが、無駄に警戒するよりも話をじっくり聞いた方が得策に思えた。

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