第一章 二人



 嬉しさで顔は紅潮し、その声ははきはきとしていた。

 黒く輝く剣を取る。

 久方ぶりに手にした剣は、少しばかり重かった。


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「ライ」

 ノックをして返事を待たずに入る。ベッドの上でランプの灯りを頼りに読んでいた本から、ライは顔をあげた。

「呼ばれたんだって?」

「うん。片付け済んだ?」

「うん。もう、ずっとシスター・ミレが見張ってんの」

「ああ……シスター・ミレかあ……」

 ライが妙にぐったりとしているのも頷ける。

 シスター・ミレは二十歳になる若いシスターだが、普段優しい反面、規則やマナーには恐ろしく厳しい。その上シスター・リズラ──つまり先刻ライを叱りつけ、アスを呼び出したあのシスターを崇拝しているため、容易く折れたりはしない。

「終わるまで帰さないって、笑顔でさ」

 その笑顔が曲者で、抵抗する気も萎えてしまう。心の底から同情し、相槌をうちながらライの横に腰掛けた。ランプの淡い光に照らされた本を覗き込み、呆れたような声をあげる。

「また、それ?」

「またとか言うな。好きなんだから」

 急いで言い返して、本に視線を落とす。

 赤い布で装丁されたそれは辞典も驚く分厚さで、丁度、全体の半分の所で開かれているものの、片側の厚さは拳一つ分を越える。

 名を、アルフィニオス神書と言った。

「創世記のところ?」

「うん、好き。時の器のとこなんか特に」

 アスに尋ねられ、揚々として答える。アスとて嫌いなわけではない。ただ、何度も繰り返して読むほどに好きにもなれなかった。しかし、アルフィニオス神書に傾倒していると言っても過言ではないライに、神書のことを語らせれば必ず出てくるものが時の器の箇所であり、覚える気がなくとも既にその話はアスの中に根付いていた。

 強欲な人間が時を手中に収めようと器を作ったが、時を哀れに思った混沌の神が器を破壊し、人間は時の呪いにより老いを得た──誰が書いたのかもわからない神書の一節である。

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