第一章 二人
この剣を誰にも渡したくないという妙な独占欲は、この教会に来た時から持ち合わせていたものだ。
服は破れ顔も埃まみれの──大人達にすればどこの戦争に巻き込まれたのかと思う程に傷ついた少女が、教会の前で長剣を抱えて座り込んでいたのは冬の終りだった。
目を獣のようにぎらぎらとさせ、剣を取ろうとする大人達から必死に剣を守り、時には噛み付いたりもした──今では昔話の種である。
剣を見ずに過ごしていた時は失せたと思っていた。だが、改めて目の前にしてみると、息をひそめていた独占欲が目を開いたことに気付く。
シスターの存在すらも外に置き、剣と自身の記憶だけで考えを成そうとするアスに、これみよがしに溜め息をつく。すると、思い出したようにアスはシスターを見つめ、次いで急いで紅茶を口にした。
「嘘を言うのはいけませんね」
紅茶を置いて、更に言い募ろうとするアスを制する。
「けれど手放したくないのでしょう?」
アスが初めて来た時のことを知っている。
どれだけ剣を想い、慈しみ──愛しんだか。
それを知ればこそ、この少女が剣を手放すことは不可能だった。
「お持ちなさい」
静かに言う。
「あなたはもう十四になる。剣を持っても自身を正しく律することは可能でしょう」
アスは顔をあげ、シスターを正視する。
──疑惑は、ない。
「剣を学ぶことを許してもらえますか」
身を乗り出すアスに、シスターは微笑して返した。
「元より禁じてなどいませんよ。人を傷付けないと誓えますね」
「父神の御名にかけて」
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