第十章 足跡



 ただし、法力や魔力以外の力、即ち三人が今追うべき人物であるなら事態は変わる。

 雨が木々の葉を打つ音のみが辺りを支配し、どちらも動きを見せない。向こうがどういう出方をするのか窺っていた。

 姿が見えない以上、気配で察することが出来るのはその動向のみで、ライにわかるのはただそこにいるであろうという感覚程度であった。ロアーナにはその息遣いすらもわかっているのかもしれないが、森を凝視して詰問する以外は何も言葉にしない。

 抜き身の白刃が雨に濡れて美しい輝きを放つ。不思議なことにこちらに攻撃しようという殺気も見られないのだから、生ぬるい緊張感が裾を広げてきた。

 このまま動かずに事態が進展するとも思えず、森の出口で様子を窺っているジャックの苛立ちがここにまで伝わってくる。そう思った途端、ジャックは自分の苛立ちを口にしていた。

「このままお見合いしてたって始まらねえぞ。それとも腰抜けか」

 いつもはジャックの軽口を咎めるロアーナも、この時ばかりは黙って様子を窺う。

 固唾を飲んで出方を待っていると、がさりと茂みをかきわける音が雨音を切り裂いた。生ぬるい緊張に鋭さが舞い戻り、三人は一様に剣を構えなおす。

 剣を構えなおした硬質な音に何者かの嘆息の声が被さった。思わず切っ先を下げかけたライの目に飛び込んできたのは、漆黒から現れた純白の制服──三人同様薄汚れてはいるものの、それでも見覚えのありすぎる形の服だった。

 何よりも目を引いたのは服と同じ、しかしそれよりも銀色の光を放つ逆立てた髪と、その下で両目を覆う布である。影から浮かび上がるようにして現れた姿は人そのものだが、まとう空気が異質すぎた。

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