第一章 二人



「覚えていますね」

 再度、確認するように問う。アスは黙ったまま剣に見入っていた。

 それを肯定ととらえたのか、言葉を続ける。

「これをあなたに返しましょう」

「どうしてですか」

「ハルアに剣を教えてもらっているようですね」

 弾かれたように顔を上げたアスに事実をつき返すと、瞬時に身を固くしたのをシスターは見逃さなかった。

「それを咎めるつもりはありません。ただ、そうする理由を聞かせてもらえますか」

 アスは少し顔を歪めて俯き、息と共に言葉を吐き出す。

「……わかりません」

「なぜです」

「なんとなく……やめろと言うならやめます」

 淡々とした表情を目にし、シスターは微かに落胆した。アスの意とするところがわかるだけに、彼女自身が胸中を語ってくれなかったことが──簡単に感情を抑えてしまったことが少しばかり悲しかった。

 小さく微笑み、アスを見据える。

「やめろとは言ってませんよ。そうする理由も責任も、充分あなたの中にはあるのでしょう」

 わずかに躊躇った後、はい、と答える。

「なら結構。やはりこれはお返しするべきでしょう」

 アスは暫し、無言で剣を見つめる。

──美しい、剣だ。

「これは」

 剣からシスターへ視線を転じる。不審そうにシスターは眉をひそめた。

「本当に私の剣なんでしょうか」

「どういうことです」

「だって、自分のことも親も……何も覚えていないのにこれは自分のものだなんて言えません」

「それは放棄すると?」

「……それも……」

 自分のものだという確証はない──だが、手放せるほどに無関心でもいられなかった。

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