第一章 二人
「覚えていますね」
再度、確認するように問う。アスは黙ったまま剣に見入っていた。
それを肯定ととらえたのか、言葉を続ける。
「これをあなたに返しましょう」
「どうしてですか」
「ハルアに剣を教えてもらっているようですね」
弾かれたように顔を上げたアスに事実をつき返すと、瞬時に身を固くしたのをシスターは見逃さなかった。
「それを咎めるつもりはありません。ただ、そうする理由を聞かせてもらえますか」
アスは少し顔を歪めて俯き、息と共に言葉を吐き出す。
「……わかりません」
「なぜです」
「なんとなく……やめろと言うならやめます」
淡々とした表情を目にし、シスターは微かに落胆した。アスの意とするところがわかるだけに、彼女自身が胸中を語ってくれなかったことが──簡単に感情を抑えてしまったことが少しばかり悲しかった。
小さく微笑み、アスを見据える。
「やめろとは言ってませんよ。そうする理由も責任も、充分あなたの中にはあるのでしょう」
わずかに躊躇った後、はい、と答える。
「なら結構。やはりこれはお返しするべきでしょう」
アスは暫し、無言で剣を見つめる。
──美しい、剣だ。
「これは」
剣からシスターへ視線を転じる。不審そうにシスターは眉をひそめた。
「本当に私の剣なんでしょうか」
「どういうことです」
「だって、自分のことも親も……何も覚えていないのにこれは自分のものだなんて言えません」
「それは放棄すると?」
「……それも……」
自分のものだという確証はない──だが、手放せるほどに無関心でもいられなかった。
- 21/862 -
[*前] | [次#]
[しおりを挟む]
[表紙へ]
0.お品書きへ
9.サイトトップへ