第一章 二人
整理すればするほど、不安な要素は割増になっていく。落ち着くつもりが逆にアスを追い詰め、頭を悩ませていると、先導するシスターが執務室の扉を開き招いた。
暖かい部屋だった。
空気もそうだが、全体的に木製家具で統一し、ランプや燭台で照らし出された室内の雰囲気はそのままシスターの人柄も表している。
「紅茶にしますか?」
勧められるままにソファに腰掛ける。シスターは紅茶を二つ用意し、アスと自分の前に置くと向かい側に座った。
「そう怯えなくてもいいですよ。楽になさい」
ふわりと微笑む。本当は優しい人なのだと知ってはいるが、執務室にまで呼ばれたとなると、ただ事ではない。礼拝堂の窓を割って以来だった。
「私、何かしましたか」
「思い当たるふしでも?」
思い切って切り出すも、シスターはきょとんとして返す。怒る気はないようだ。そうわかるや否や疑っていた自分が恥ずかしくなり、慌てて首を横に振る。
「あ、いや、ないです」
「怒られる覚えがないと、呼び出されるのがそんなに不安ですか」
「というか……それ以外で呼び出されたことがないので」
すっかり恐縮しきったアスの言葉にシスターは紅茶を置いて、くすくすと笑い出す。
「……確かにそうですね。ですが、呼んだのは怒る為ではありませんよ」
立ち上がって執務机に歩み寄り、椅子側に回り込んで布に包まれた長い竿のようなものを手に戻る。
一メートル弱あるかないかの長さであるそれは、ごとりと二人の紅茶の間に置かれた。
「覚えていますか?」
皺だらけの手が布をまくりあげる。すると漆黒の輝きを放つ鞘が姿を見せた。
鍔口と鞘の先は金で美しく装飾され、鞘と同様に漆黒の色を落とす鍔は独特の曲線を描いて革製の柄に続く。鍔の中心には燭を灯したように光の当たり具合によって時に赤、時に金色を放つ石がはめ込まれていた。
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