第六章 その陰を知らず



「……何だ、それは」

 かろうじて意識を保っている状態で、カリーニンは剣を構えなおす。法力か魔力か、どちらでもないのかと頭が冷静な判断を求める。

 目の前の現実に混乱する彼らに対し、少女はあっけらかんとして言う。

「これ?あたしのお守り」

「お守り?」

 リヒムが鸚鵡返しに訊く。

「そう。あたし一人で大丈夫って言ってるのに」

 不意に少女の顔に暗いものが訪れる。華やかな笑顔とは裏腹に、しかし、こちらの表情の方が彼女には似合っているように見えた。

 戦慄を堪えるカリーニンとは反対に、アスはそこに自分と似たものを見た。この少女の笑い方を自分は知っている。鮮血の中に佇んで浮かべる笑顔。全てに恐怖を与える笑顔。でもどうしてか、その向こうには沢山の実をつけた麦畑が、さざなみをたてているのが見える。恐ろしいはずなのに、少女越しに得た印象はひどく懐かしさを覚えた。

 わずかに切っ先を下ろしたアスを認めて、少女はにやりと笑う。

「あたしがあんたを殺すくらい、訳ないのに」

 言葉の意味を悟るよりも早く、少女は足を動かした。慌てて剣を構えなおすも遅い。つま先で地を蹴りだした少女は風のような速さでアスの──アスの横に並ぶリヒムの首をはねた。

 まるで舞うような仕草で手刀をひらめかして横に薙ぐ。手であったそれは刃の鋭さを持ってリヒムの首を斬り落とした。ごとり、とやけに鈍い音がして下を見れば、血で赤黒く汚れた何かが転がっている。リヒムの頭だった。

 全てが一瞬の内に行われた出来事で、頭を失った体から血が滝のように溢れ出す。その向こうで少女は妖艶な笑みをアスに向けていた。ふと合った視線に手が震えだす。かちゃかちゃと剣が揺れ、しっかり握ろうとするも、汗で滑って上手く握れない。そうして落とした視線に飛び込むものがあった。

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