第六章 その陰を知らず



 だが、と思い直して息を吐いた。バーンがそう言うのなら、という漠然とした安心感もあった。あまりにも漠然としすぎて、それが何に由来するものなのかはわからない。だが、彼が大丈夫と言えば、ああ大丈夫なんだ、と納得出来る自分がいた。ならば、自分は精一杯働くしかない。

 領主の性格、隠し部屋の金庫からしてそう時間はかからない。いくつか罠もあるだろうが、バーンの盗みの技術は群を抜いている。あのずんぐりとした領主が仕掛けた罠になど容易くひっかからないだろう。そう思うと少し気が楽になり、小さく笑ってしまった。それを見たカリーニンが苦笑する。

「何だ、面白いことでもあったか」

 見られてたのかと思うと気恥ずかしくなり、顔の前で手を振る。

「あ、いや、違う違う。今回は大漁だろうな、って」

「そうだな」

 そう言ってカリーニンは破顔した。

「腹と同じく溜め込んでるんじゃないか」

 その冗談がいやに現実味を帯びて聞こえ、リヒムやラックは忍び笑いをもらした。無闇に張り詰めていた緊張が解け、リヒムはようやくアスの表情を窺い見る余裕が出来る。カリーニンの影に立ち、じっと通りの闇を見つめる姿はやはり底知れない。だが、健康に焼けた肌と夕陽色の短い髪、そして意外に華奢な印象を受ける体つきはやはり女であることを思わせた。自分は見ていないが、仲間の話によるとあの髪も元は長かったという。背中ぐらいまでを想像し、リヒムは胸が温かくなるのを感じた。何だ、結構いい感じじゃないか。

「なあ」

 思い切って声をかける。アスは緩慢な動作でリヒムを見た。その向こうではラックが呆れたように天を仰いでいる。

「あんた話せないんだよな」

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